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渡されて、本当に驚いた。
その猫の毛の上質な触り心地に。
柔らかくて、フワフワしていて、この公園に零れ落ちたバニラアイスのように真っ白で、まー簡単にいうと、やばい。
めちゃくちゃ可愛い。
鼻とかピンクで目がブルーで身体つきはちょっと細いし、手足長いし、そう、すげー大人しいのよ。
ウッハ、もうたまんねぇな。
もっさもっさと撫でくり回す。ついでに顎の辺りをクリクリしてやると目を細めてめっちゃこいつ、気持ちよさそうな顔してんの。
こいつは俺の嫁、決定。
こいつの名前は全部終わって、家に帰ってから付けてやるか。ミルクでもやりながら。
「俺ちょっと一回家に帰るよ」
「……えっ?貴方何言ってるの?」
「やーやー、コイツを俺の家に置いてくる」
そうです。俺、こいつ飼うのです。
いや本当いうと、一人暮らしになるわけであって、俺には何か家に帰ったら出迎えてくれる、何かそんな存在が欲しかったんだと思う。
初めての一人暮らし、肉親の叔父は今は県外で妹はそっちで住んでいて、結構寂しかったりしたわけで、受験前の追い込みという事で割と本気で勉強と一人暮らし実体験と名目で一週間前から昔この辺りに住んでいた事がある。というか本来の実家は此方なのだ。
ここで追い込みをかけていた。
掃除と勉強、得意とはいえない料理と洗濯、買い出し。
精神的に癒やしを求めていたのかもしれない。出迎えてくれる人が欲しいって。
正直にいうと、ホームシックである。
それにしても、何だか、考えてみると嫌な構図だよな。
名残惜しそうに猫を見つめる彼女、そのぬこを抱きにムネムネして抱える俺。
俺っても、もしかして、あ、あれか?い…いじめっ子に見えるかもしれない。
う、うぁお、お、俺っていじめっ子。
は、は、は、ど、どうだ?ま、参ったか!
や、止めよう。は、恥ずかしくなってきたぜ。
何だか自分がとてつもなく、アホな存在に思えて仕方なくて、恥ずかしい。
「……貴方が飼うって事?」
一人ポーカーフェイス気取って、心の中で悶えていると彼女から声がかかる。
不意打ちに声を掛けられて、は、はひぃと声が出そうだったのを全力でこらえた俺を誰か誉めてくれ。それに。
俺の心は決まっていたからそのまま言葉に出した。
「うん」
「……あら、そう…」
え?それだけ?
「ああ」
何となく、沈黙。
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