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そろそろ良い頃合いだろう。
二人で笑い終え、受験の事もあるので、急がないといけず、正直寂しい。
だがそれにかまけてもいられない受験の自分が恨めしい。
だがまぁ初対面だし、こんなもんだ。
それに、尋常じゃない顔の赤さが俺の顔から引かないってもあるからだ。これ以上はまずい。
こんなに楽しかったんだ。これ以上欲張ったら罰が当たりそうだから、俺はくるりと子猫を抱えたまま、彼女に背を向ける。
そのまま、ゆっくりと走り出し、彼女に後ろ手で手を降りながら。
「……じゃあ」
「……あっ…」
何かを言い渋るような声、それになんだか行って欲しくないように聞こえた。
ちょっと唐突だったかな、と思うが俺にはこれで限界だ、もうあまり直視できないし、だけど。
ズキンと胸が痛んだ気がした。
だから不意に彼女に言った、というよりも口から漏れた。
「……もし!」
「……ふぇ?」
危なかった、今のは思わずノックアウトされそうになった。思わぬ不意打ちにまたドキリ。
思わず、猫を抱えたまま滑る。まじあぶねー。
即座に体勢を整えながら、俺は願いが叶うように大声で再会を含んだ言葉を彼女に贈る。
「もし!もしも!また会えたら、猫!見に来いよ!そんとき!よかったら本当のあんたってやつを見せてくれよ!」
「……え?」
「じゃーな!」
「ニャー」
そして足を早めていく。ドキドキと止まらない心臓。赤く火照る頬。
少しちらりと後ろ目で確認する彼女はなんだかもの凄く間抜け顔で。
振り返る、すると、雲は晴れ、日が照らされていて、朝のいつもの風景。
だけど、今日のこの限りなく透明に近く晴れ渡った青い空はいつもより綺麗に見えて、まるで、俺の青臭い自分を現しているみたいで。
とても晴れ晴れとした気分になれた。
何かに吹っ切れたみたいに。
短いのにでも濃厚だと思えた彼女との時間。
全部が俺の未体験だった。
そう、これが俺の――――――――――
「ねぇ!」
そんな叫び声が聞こえ、俺は後ろ目で首を傾げて声の持ち主を見やる。
「貴方の名前は!?」
「小椋俊!しゅんだ!」
小椋俊、俺の物語りだ。
始まり始まり。
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