~Day5~

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「ふぁーあ。ちょっとシャワーでも浴びて頭シャッキリさせようかな。それから朝御飯だ。おっと、一緒に燻製でも作っておこうかな。確か卵と豚肉が冷蔵庫にあったはずだし。」 一人暮らしの者の宿命か、やたらと独り言を溢し、冷蔵庫から食材を出した後に一郎は風呂場へと消えていった。しかし、当事者意識が足りないながらも保存食を作ろうとしたり、また空になった居間の低いテーブルの上には一昨日の晩に出してきた非常持出袋がしっかりと用意されているなど、その点は案外と抜けてはいないのであった。 それから約1時間後。居間には良い感じに茹で上がった一郎が再び鎮座している。上はランニングシャツ、下はパンツといったスタイルの頭にはバスタオル、右手にはビールと、もはや休日の昼間から酒盛りをしている駄目なおっさんの様相を呈しているのだが、それが妙にしっくりと来る点、如何ともし難い哀しさが感じられるというものである。 「いやー、良い湯だった。朝風呂なんか久しぶりだからついつい長湯しちゃったなぁ。てゆってももう昼前なんだけどね。それにしても、なんか余計に酷くなってきてないか?これは何だ。何で何だ?」 一郎が今述べた疑問は、淡々と暴動についての情報を流し続けているテレビにあった。長崎駅の暴動が報道されたのが昨日の昼過ぎ程であったが、その後テレビは新たな情報を一郎に伝えていた。  まず一つ目が、長崎市全域に対して、避難勧告がなされたということである。避難勧告とは、災害対策基本法に基づき市町村長の判断によりなされる住民への勧告であり、早い話が、その地域は危ないから逃げた方がいいという指示のことを意味する。これ自体は大雨で川の氾濫の恐れがあるような場合にも出されるもので、命に直結する程の危険性を示唆するものではなく、梅雨の時期などにはニュースでもよく耳にするものである。しかし、今回においては、この避難勧告は違った意味を持っていた。  今述べたように、避難勧告を出すのは市町村長であり、そして市町村長が公務執行不可能となれば都道府県知事が出すことが定められているのだが、しかし、今回の勧告はそのどちらでもなく、内閣府から発せられているのである。すなわち、都道府県知事でさえ公務執行不可能状態に陥っており、内閣総理大臣が超法規的に勧告を出しているわけであって、このようなことは、はっきりいって異常と言わざるを得ないといえる。
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