プロローグ

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『………その後ろ姿に声を掛けそうになった。しかし翔子は何も言えず、そのまま彼が小さくなっていく姿をただ眺めていたのだった。  空に再び雨雲が出てきたのを感じた。』 それが今日の分の最後のページだった。 立松法子(タテマツノリコ)はハードカバーの小説を閉じて椅子から立ち上がると、ベッドの脇にある棚へ本を戻した。 今日はちょっと読み過ぎてしまった。 丁度良い区切りがなかなか来なかったのだ。 しかし、良い具合に話が進んだ。 これは益々面白くなりそうだ。 彼女はベッドに潜ると、この小説のこの後の展開、そして犯人を予想しだした。 状況的に言えば、犯人は主人公である吉之介に見える。 だけど、それではこの小説が根本から破綻してしまう。 主人公の無実を晴らすことがこの小説のストーリー展開と言えるからだ。 彼は真犯人に罪を着せられた。 では、その真犯人とは……。 有りがちな設定だが、それでも文章力のある作者ならではの魅力があり、また面白味がある。 急に眠気に襲われた。 ‘今日は疲れたから早めに寝入ってしまうだろうな’ そんなことを考えていた刹那、彼女は眠りについた。
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