出会い

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此所は何処…? 空ろう意識の中、遥菜はぼんやりと思った。辺りはほの暗く自身の周囲を生暖かい水が覆って居る。不思議と呼吸は出来、胎児はこんな感じなのだろうかと一人考えて居ると誰かの視線を感じる。 そして思った。 此所から出なくては。それも急いで、だ。 「ヘル」 手のひらから光が生まれる。巨大な鎌を召喚し、遥菜は空間をたたき切った。 時間が止まった。とはこの事を言うのだろう。大輝は異形の中の空ろな目を見たまま動けずに居た。 「!」 そして大輝が時間の流れに再び身を投じたのは突如として少女の目に光が戻った時だった。ハッとして大輝が身を引くのとほぼ同時に異形の胴を断つ様に横真っ直ぐに光が走る。 異形の太い断末魔。 そして異形の姿が消えた後には、巨大な鎌(占いのカードでよく見る死神が持つ様な)を携えた少女がボゥッと立ち尽くして居た。 「だ…大丈夫、かい?」 どう声をかけて良いか分からず、大輝はお世辞にも大丈夫とは言えない状態の少女に聞いた。 少女の持つ鎌が光となって宙へ散り、消えた。やや間があって少女が倒れる。大輝は大技の後で思う様にならない身体で少女を支え、砂場に視線を投げた。 「李麗!生きてるか!?」 砂場から一塵の砂が吹いた(ブッと空気を吐く音と軽くむせる声がしたので砂を吐いたのだろう)。 そして砂だらけの腕が出て来て(一瞬生えてきた様に見えた)ゆらゆらと力なく手を振った。大輝は取り敢えず安堵の息を吐く。 耳を澄ますと風に木々が答え、ざわめきをたてた。全ての音が、気配が戻って来る。異形が消え去った何よりの証に大輝はもう一度息を吐いた。
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