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「ただいま」
久し振りの我が家の玄関を通ると母親と猫が迎えに出て来た。
「隼ちゃん、おかえりなさい」
「只今帰りました」
『ミィミィ』と相変わらず枯れた(もしかしたらこの間より枯れたかも)我が家の猫を抱き上げる。この触り心地はいつ迄も(鳴き声は少し治って欲しいが)健在であって欲しい。
そしてふと疑問に思う。
「母さん、李麗は?」
「李麗ちゃん?今お友達とお昼寝してるわよ」
穏やかな母の声色に準夜は足元をみた。
…見慣れない、靴が一足。
しかも、男物。
「…」
靴を見て固まる準夜。
「…?」
そのままの表情で首を傾げる母。
「李麗!」
柊護を放り投げ素早く階段を駆け上がる息子を見送り、
「お兄ちゃん、酷いわねぇ」
『ミィ~』と悲しそうに鳴いた柊護の頭を撫で、母は猫と共にリビングへ姿を消した。
スパーンと派手な音をたてて襖が開く。しかし眠りが『熟』の域に達していた二人は気付かず、静かに寝息を立てている。
「李麗!」
「んぁ?」
李麗が目を覚ます。しかし寝起きの頭がうまく回る筈もなく、ふぁ…と間の抜けた欠伸をして、再び眠りに落ちた。
「…」
「李麗!起きろ!」
準夜の声で今度は大輝が目を覚ます。
「…?」
うっと準夜が口詰まる。
嫌な間が、部屋いっぱいに充満したのを、お互い感じた。
「…お、お邪魔してます」
大輝も流石に寝起きは弱く(おまけに眼鏡を掛けていない)布団から半身を起こしての挨拶をした。
「ご、ごゆっくり…どうぞ」
取り敢えず…悪い男ではないので…。えらく複雑な空気の中、準夜は部屋を後にした。
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