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「んじゃ、行って来ます」
赤紫のリュックを背負い、李麗は意気揚々と家族に手を振った。
「大輝君。李麗を宜しくね」
「李麗、気を付けて行くんだよ。大輝君。何か粗相したら教えてね」
「はい。…あの、準夜さんは?」
李麗の母、鏡夜…はいるのだが準夜が居ない。
「凖は大学の合宿があるから」
「鏡兄、親父の電話。たのんだぜ」
「まぁ、頑張るよ」
「柊ちゃん、いい子にしてるのよ」
李麗の母がゲージで小刻みに震えている柊護に声を掛ける。『ミィ…』と情けない声がゲージから返って来る。画して二人は大輝の祖父が待つ山へ向う。
『柊護』
『呉射クゥ~ン…』
あまりに情けない声に呉射は思わず苦笑(?)した。
『…大丈夫?』
『ゲージ大嫌い。狭いし暗いし…』
『閉所恐怖症?』
『へいしょう負傷?』
『…。嫌な思い出があるのかい?』
『ううん。昔っから苦手なの。アレ?呉射クンはどうするの』
『羽があるのは鳥の特権だね』
『一回鳥籠に入ってみなよ…』
泣きそうな柊護の声を耳に呉射は翼を力強く羽ばたかせる。初夏の空気は微かに熱を帯び、その黒い体を容赦なく焼いた。
本当に山だ。
道なき道を進み、李麗は思った。大輝の背を見失わぬ様、歩く。何より柊護入りのゲージが重い。
「李麗」
不意に足を止め大輝が振り向く。
「…持とうか」
普段なら断るところだが、此所は好意に甘えるべきだろう。
李麗は頷き、ゲージを差し出した…
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