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「多いな…」
広神大輝(ヒロカミ タイキ)は溜め息もそこそこに周囲を見渡す。
異形、異形、異形異形異形。右を見ても左を見ても、多分後ろを見ても居る。
「呉射(クレイ)」
呼ばれるのを待っていたかの様に黒い影が異形の群れを襲った。異形達が怯むのに合わせて、大輝はトンファーを異形の腹に叩き付ける。耳障りな断末魔と共に異形は形を無くし、アスファルトに滑る様に消えた。
安堵から大輝はもう一度息を吐いた。
疲労感が体に満ちて酷くダルい。壁に寄り掛かる。目を閉じると羽音が耳に飛び込み、次いで『カァ』と鳴き声が聞こえて肩に重みを感じた。
「心配ない。大丈夫だ…」
傍らに放ってあった学生鞄を肩に引っ掛け欠伸もそこそこに、今日は学校に行くべきか頭を巡らせながら歩き始めた。
「参ったな…」
家に帰ろう。と決めたまでは良かった。しかし携帯の時計を覗けばバスは愚か、電車すら走っていない時刻。
何とも閑静な住宅街で異形に襲われたせいで時間を潰せるコンビニは周囲に見当たらない。その時だ。『ギャア』と興奮気味に呉射が鳴いた。
――異形に顔は無い。
しかし大輝は見えない目と目が合った様な気がした。背中にぞわりと冷たい何かが這う。
反れた。
「炎!(エン)」
声と共に空気の温度が急激に高くなる。瞬間、空気がはぜて瞬く間に炎が異形を包み込んだ。
異形の苦痛に満ちた断末魔が暗い夜道に響く。
(今のは…?)
今度こそ大輝は膝を付いた。視界が真っ暗になる。
「おい、大丈夫か?兄ちゃん?」
おーい。と呼び掛ける声に答える間もなく大輝は気を失った。
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