守護体

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「ご苦労さんじゃったの」 からからと笑う祖父を大輝は軽く睨んだ。取り敢えずTシャツを脱ごうと背を向ける。 「何処に行くんじゃ」 「着替えて来るんだよ。気持ち悪いから」 「だったら裏の川にでも行って来たらどうじゃ。李麗ちゃんも喜ぶぞい」 「…声、掛けてみるよ」 「スッゲェ!」 李麗の顔が輝く。澄んだ川は日の光を受け、キラキラと輝いた。 「入ってイイのか…?」 「流されない様にな」 李麗が川に駆け寄るのを見届けて、大輝は日陰に入った。日に当たる当たらないでこうも違うものだ。大輝は息を吐き、その場に腰掛けた。 目を閉じるとせせらぎと蝉時雨が入り交じり、耳へと飛び込んで来る。 「…大輝君?…李麗ちゃん?」 不意に自分の名前を呼ぶ声を聞いた様な気がして大輝は目を開いた。 「遥菜?」 やや癖っ気のあるセミロングの髪。人懐っこさを感じさせる大きな瞳。成瀬遥菜が、目の前に屈んでいた。 「やっぱり大輝君だ」 「どうして?」 「お母さんと観光に寄ってたの。偶然だね」 そう笑い、川の中央を陣取っている李麗を見やる。当の本人は真剣な顔で――何故か片腕を宙に上げて――川底を睨んで居た。 「何やってるんだ?」 「今から凄い事やるから見てろって…」 一瞬、空気が緊張する。 次の瞬間。 李麗の片腕が、水を豪快に抉り、飛沫と共に一匹の川魚が岸に叩き付けられた。 「………。」 「スッ…」 遥菜が川魚に駆け寄る。 「スッゴイ!李麗ちゃん!」 遠めにそれを見つめ、大輝は 「熊か…?」 あきれ気味に、呟くのだった。
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