出会い

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「呉射」 名を呼ぶと烏は電柱から迷いなく大輝の左腕に飛び移った。さながら鷹飼いの様な光景に李麗は感嘆の息を吐いた。 「スッゲェ…こんなん初めて見た」 烏を見るその顔は幼い子供の様で思わず大輝は笑みを零した。 「李麗…」 「あに?」 スプーンの絶えず動く音。大輝は只、隣りを眺めていた。 「大輝君、おかわりいらないかしら?」 李麗の母がにこやかにキッチンの鍋を指す。大輝は苦笑を浮かべながら両の手の平を向けて、緩く首を左右に振る。 「ご、ご好意だけで…」 時刻は十二時過ぎ。テレビでは定番番組で司会者が場を盛り上げている。…状況だけ言うと大輝は今、李麗の家で昼食をご馳走になっている。 シチューライスがふんわりと湯気と香りを放つ…のは、隣りに座る李麗の皿からだ。 因みに大輝はすでに食べ終わっている。 李麗の母は大輝が気に入ったのか、仕切りにおかわりを求めて来るのだが大輝に言わせて見れば隣りの大盛り(段階で言うならもう天こ盛りだ)をなんとかして欲しい。 痩せの大食い…と褒めるべきか。とにかく、細い割によく食べるものだ。 大輝は軽く溜め息を吐き背後で困った様にシチューの入った皿を啄んでいいのか迷っている呉射とゲージの中で『ニーニー』と(余りに過度に鳴くので、このままだと益々枯れる一方だ)出す様訴えている柊護(しゅうご)を見やった。 「もう良いのか?」 大輝の様子に気付いた李麗が顔を覗き込む。 「うん…」 「そっか、じゃちょっと待ってな」 言うが早いか李麗はスプーンの手を更に加速して天こ盛りのライスはその姿を消した。 「母さん、ご馳走様。おい、大輝!二階行こうぜ!」 「え、おい、李麗!」 大輝に唖然とさせる間も無く席を立ち、凄まじい勢いで階段を駆け上がる。 …早過ぎて音しか認識できなかった。 「…ご馳走様でした」 李麗の母に頭を下げる。せめて言葉だけでもしっかり感謝の意は伝えたいものだ。 「ええ。お二階の行き方分かります?」 「あ、はい…」 席を立つ際李麗の母に礼をし、階段に向かうと李麗が途中で腰掛けて待っていた。 「しまった、呉射置いてきた」 はた、と足を止めた大輝に李麗は片眉を上げて見せた。 「大丈夫じゃね?母さん動物好きだし」 「でも、烏だぞ?」
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