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嫌じゃないかな、と呟いた大輝の台詞に続きを上りかけた李麗が振り向いた。
「…ゴキ迄『可愛い』って言うんだぜ?あの人」
大輝は無言で李麗の後に続いた。
大輝の指が素早くコンボを叩き込む。
『旋風破散!』
キャラが敵に技を繰り出す。気絶状態でフラフラと立って居る李麗の操作キャラにとどめを刺す。
キャラの断末魔の声が画面に響く時には李麗は『お手上げ』の意を表し、コントローラーを床に置いていた。
「お前激強」
「李麗の動きが単調なんじゃ?」
「一日にレアコンボこんなにお目にかかるたぁ思わなかった」
ゲーム機に寄り電源を切る。ベットに寝転がり「好きなの読んで」と本棚から漫画本を取り出し、読み始めた。
マイペース、とは彼女の様な人を言うのだろう。女っ気のない広い部屋を見渡して大輝は制服のポケットから薄緑の眼鏡拭きを取り出し、レンズを拭く。
…不意に気付いた。
黒いハンガーに架かっている(恐らく李麗の物であろう)制服に。
「李麗、あれ君の制服?」
「おう」
漫画を傍らに置いて李麗が振り返る。そして壁に掛けられた自分の制服と大輝の制服を見比べる。
「一緒じゃん」
…大輝には一つ見逃せないところがあった。
「上着…男子の上着じゃないか」
「下だけでも女モン着てんだ。大体私服高校で男女の制服どうこう言われるのは変だろ?」
「まぁ…」
不意に李麗はベットから起き上がり窓をジッと見つめた。
大輝も口を噤み、周囲の音を耳に集める。
「来た」
「近い、な」
空気が固まったかの様だ。シンと静まり返った中に得体の知れない緊張が走っている。
この感じを二人は知っていた。
異形が、すぐ側に居る。
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