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あの夕暮れから…更に数年経ち、僕は社会人になっていた
あの家は、たまに帰って来る住人を待ち侘び…
僕も長かった髪を切り、髭もない…何処にでもいるサラリーマンになった
彼女は確か、高校生になっている筈だった
東京で就職しても偶然会う機会などなく、僕も大学時代に付き合っていた彼女とは会えなくなった
彼女は地元で就職し、たまに帰ると共通の話題もなく、ただ時間の浪費に会っている気がした
その位、東京の生活は疲れ…友人もいない孤独感を味わう毎日だった
暮れに実家に帰った時、久しぶりの彼女を見かけた
彼女も長かった髪を切り、背は少し伸びていたが、相変わらず白い顔に…ほんの少し紅を差していた
漆黒の髪にリボンはなかったが、まさしく…僕にとって天使の様な存在だった
凛とした表情に、ビロードの濃いグリーンのジャケット
ロングスカートが大人の印象を与えた
久しぶりに見る彼女に…胸がときめいた
丹念に時間をかけて作られた、陶器で出来た西洋の、人形の様な気がした
「寒いね」
にっこりと笑顔を返し
「本当に」
「何処か出掛けてたの?」
「…病院に…明日から年末でお休みだから、薬を貰ってきたの」
午後の低く垂れ込める雲が、南に向かって流されていた
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