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――遠くで
鐘の鳴る音がする‥。
.
彼は眩しそうに目を細めた。実際にはまだ、開けてはいないのだけれど。
顔に掛かる光に、冬の冷気が覆い被さる。
.
彼はうっすらと目を開けて、つむった。
そしてまた目を開けて、一度瞬き、再びつむった。
そうして何度か繰り返している内に、目が慣れて来る。
しかし、温い場所から離れることの拒絶と、優しい夢へ戻りたい願望に引きずり込まれそうなった。
‥瞬間、寝床から転げ落ちた。
「―――‥ぃ‥たい‥」
顔をしかめて寝床をねめつける。
何回転しても落ちそうにないほど広いベッドから落ちた。その事実を再確認し、溜め息を吐く。
贅沢な寝間着。
軽くて温かい寝具。
腰を痛めなくて済む綿のたくさんはいった敷き布団。
・
彼は自分の手のひらを見た。
成人したというのに、鍬の使い方ひとつも知らない。見たこともなければ、触ったこともない。
手入れをされた、自分の白い手のひらを見た。
窓に近付いて、高い塀の外側を見た。
遠くなればなるほど、建物は貧しくなり、身なりも変わっていく。
自分はその、中心にいて、綺麗なものに囲まれながら育った。
下級身分の国民を、
見たことがなかった。
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