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「ええ、わかってる」
遮るように強く出た言葉だったが、表情は柔らかかった。
決意が見えていた。
「そうか。ひかるがそう言うんなら俺は止めねぇよ」
不安そうな表情は拭えなかったが、それでもひかるの事は信頼している。
今まで一緒に戦ってきた、戦友だからなのか。
「祈りの祠の地図はもうないけど、手探りでなんとか探し当てるわ。
…海、あなたはどうするの?」
「俺は…帰る場所なんてねぇし、とりあえず旅に出る。
このどうしようもない世界を、根本から覆してやりたいんだ」
遠くを真っ直ぐ見つめ、横顔は朝日に照らされている。
無意味な戦いはもう、繰り返してはいけないのだ。
「俺が変えてやる」
強い言葉だった。
「…またどこかで会えたらいいわね」
「この狭い世界だ、いつだって会えるさ」
屈託のない変わらぬ笑顔。
長くを共にした戦友とは、ここで別れとなるだろう。
寂しい気持ちもあるけれど、故郷に帰れる嬉しさもあった。
帰りを待ってくれてる人がいる。
知らぬ間に、王国の火は鎮火しかけていた。
本当に、全ての苦しみが今、終わろうとしている。
「ここでもうお別れね」
「今までありがとな」
すっと差し出される海の左手を、優しく握る。
そして握手が解けると、海は背を向けて新たな道へと歩きだしていく。
大きな背中を見送り、そしてひかるは前を向いた。
優しい風が、そっと頬を撫でた。
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