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 この家の象徴でもあった老婆。  痩せこけた醜い体で、どの瞬間にもこの世界に君臨し続けた女だった。  落ち窪んだ瞼に触れ、肉のない頬を撫でる。  手よりも一層冷たいその温度に、桃香は全身を震わせた。  唐突に込み上げてきたのは、吐き気。  世界のすべての悲劇を背負ったような――菊江の満足気な微笑だった。  あなたの、罪、は。  これでゆるされたのか。  あなたの旅立つ先には、光があるのだろうか。  醜いその姿で、あなたの歩いてきた道にも、足跡は残されているのだろうか。  時に一組で――神はあなたを背負って歩いたのだろうか。 「――お義母さん――…」  寝起きのまま、やつれた頬に張りついた髪を、耳にかけるその動作。  そのまま崩れ落ちるように膝をつき、顔を覆って絶句した佐和子の傍らに、洋介がぼんやりと立っていた。 「そんな――お義母さん――お義母さん――…」  壊れたステレオのように、途切れ繰り返す佐和子が、哀れに思えた。  佐和子にとって菊江は、どんな存在だったのだろうかと、白い頬に手を置いたまま、桃香は思う。
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