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夕日が眩しいと、桃香は思う。
教室の窓の向こう、山の稜線を際立てるかのように、夕日が傾いている。
ここでは夕日になっている太陽が、違う場所では朝日や真昼の日になっているということが、にわかには信じられない。
地球は丸いと、本当はただそれだけのことなのに。
放課後の教室には、自分ともうひとり、担任の大場しかいなかった。
高校3年の夏。
夏休みを控え、進学クラスでなくても、みな塾に追われて帰宅は早かった。
「いいかげんにせぇよ、中川!」
赤黒い顔をさらに赤く染めて、大場が机を叩いた。
――醜悪で、吐き気がする。
出来損ないのえせ関西弁が耳障りだと、桃香は思う。
関西の言葉はよほど影響力があるのか、人は関西に来るとすぐ真似をしたがる。
ぐちゃぐちゃで、まるでイントネーションを無視したその話し方は、不快以外のなにものでもなかった。
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