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家族だったのだ。
間違いなく、この冷たい老婆も家族だったのだ。
見捨てられた、とか。
裏切られた、とか。
憎い、とか。
殺してやりたい、とか。
それ以前に。
途方もない喪失感だった。
立つ地面を揺らされたような、不安定さ。
もう……なにも言えん――…
義之が早々に降りたマウンドから、またひとり、去っていく。
死ぬということ。
命の温度のない、脱け殻の体。
うずくまる佐和子の傍らで、洋介ががたがたと震えていた。
小さな肩を揺らして。
歯の根が噛み合わないほと、寒さに震えるように。
「洋介――」
「お祖母ちゃん、死んだ、の?」
「――そうや」
「死んで、どこに行くん……?」
佐和子の嗚咽が激しく耳に打ち付ける。
お義母さん、お義母さん――…
「――お祖母ちゃんは、これから、どこに行くん……?」
「あったかい、とこ、や」
「ほんま、に……?」
「病気も、なんもない、泣くことも苦しいことも、なんもない、あったかいとこや――…」
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