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見上げてくる佐和子の暗い眼に、自分が大きく映っていた。
「なぁ……桃。あんた、なにがあったん……」
「なんの、話……?」
「お義母さんと、なにがあったんか、もう教えてくれてもかまへん時期違うか」
「なに、言うて――」
「お義母さんだけ違う。……義之さんとも、あんた、なにがあったんや」
佐和子の眼に、生気が戻る。
らんらんと、あるいはぎらぎらと、生々しく宿るその色は、女。
生臭いまでの、女だった。
さっと鳥肌の立つ腕を引き、桃香は一歩後退る。
本能が避ける恐怖だった。
「気づいてないと思ぉたか? 義之さんも、お義母さんも――あんたも、私を阿呆や思てるやろ」
「そんな――」
「阿呆で結構。阿呆でないと、生きられんようになっとるんや」
「お母さん――」
「――どんなけ阿呆や言われてもな、精一杯で、やってきたんや。望んで望まれて生んでも、女やなくなってく。どんなけがんばっても、なにひとつ返ってこやん。……あんたにはわからん話やろ」
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