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自分の体から立ち上る汗の臭いが、鼻を刺激する。
反対に、汗の薄い志緒の柔らかな体臭。
乱れた髪をゆっくりと撫でる手のひらは、ひんやりと冷たく、心地よかった。
「――桃ちゃん、聞いて。私の話を聞いて」
優しい、流れる水のような、涼やかな声。
「あれから、考えてたの。ずっと考えてたのよ、桃ちゃんのこと。――私たちは、少し間違えたんだわ。関わり方を。もっともっと、いろんな話をすればよかったって、いろんな桃ちゃんを知ればよかったって、後悔したの」
「志緒――…」
「打ち明け話じゃなくてもいい。話せないことは、話せないままでもいいの。そうじゃなくて――」
見上げた先には、志緒の穏やかな微笑があった。
少し痩せた、美しい――女。
「桃ちゃんが、今、なにを考えてるのか。なにを感じてるのか。私に聞かせてほしいの。もっと話をしたいの――心の話をしたいの」
諭すように。
玄関から射し込む傾いた夕陽に、うっすらと影になって。
美しかった。
これまでに見た、どんな志緒よりも、どんな女よりも。
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