12

16/17
前へ
/270ページ
次へ
 自分の体から立ち上る汗の臭いが、鼻を刺激する。  反対に、汗の薄い志緒の柔らかな体臭。  乱れた髪をゆっくりと撫でる手のひらは、ひんやりと冷たく、心地よかった。 「――桃ちゃん、聞いて。私の話を聞いて」  優しい、流れる水のような、涼やかな声。 「あれから、考えてたの。ずっと考えてたのよ、桃ちゃんのこと。――私たちは、少し間違えたんだわ。関わり方を。もっともっと、いろんな話をすればよかったって、いろんな桃ちゃんを知ればよかったって、後悔したの」 「志緒――…」 「打ち明け話じゃなくてもいい。話せないことは、話せないままでもいいの。そうじゃなくて――」  見上げた先には、志緒の穏やかな微笑があった。  少し痩せた、美しい――女。 「桃ちゃんが、今、なにを考えてるのか。なにを感じてるのか。私に聞かせてほしいの。もっと話をしたいの――心の話をしたいの」  諭すように。  玄関から射し込む傾いた夕陽に、うっすらと影になって。  美しかった。  これまでに見た、どんな志緒よりも、どんな女よりも。
/270ページ

最初のコメントを投稿しよう!

394人が本棚に入れています
本棚に追加