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 今、志緒たちの前でする話ではないだろうと思いながら、桃香はうなずく。  早々に喪服を解いていた美希は、癖になっているのか、大義そうに腹を擦った。 「なにもこんな暑い時にねぇ? 桃香ちゃんも思わん? 安定期になるまで待ってくれたかていいもんやろ」  安定期、の言葉に、志緒が少し表情を暗くしたのがわかった。 「美希さん、今は――」 「お義父さんも大変や言うのに、もうちょっと配慮できひんかったんかしら」  さっと逆立ったのは、神経だった。 「あたしは悪阻自体はたいしたことないけど、こんな炎天下にあっちらこっちら動かされたら、たまらんわ」  嫁、という立場。  妊婦、という傲慢。  今、美希の吐き出す言葉すべてを、この場で燃やしてしまいたい衝動。  菊江は、卑怯な女ではあったが、下品な女ではなかった。  罪にまみれた女だったが、下品な女ではなかった。  美希を初めて、下品だと思う。  老いて、骨だけに痩せて、汚物を垂れ流すだけであっても。  美希に見下され、蔑まれるための生ではなく――死でもない。
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