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「美希さん――」
どんな罵倒を浴びせてやろうかと、頭の中で言葉を練り回す。
冷静になる思考は、どこまでもクリアだった。
立ち上がろうとした桃香の手を、純平が引く。
「お風呂、借りてかまへん? 汗で気色悪いねん。あ――お友達さんも、ゆっくりしてってくださいね」
「離せ、純平」
「駄目です。後でいくらでも俺に八つ当たりしてかまへんから、今は駄目です」
低い声で囁くように。
「ほなお風呂借りるわね。直ちゃんと、夕飯どうするかまた相談しとくわぁ」
「――死とは、なんだと思いますか?」
飄々とした、遥の声だった。
表情を曇らせていた志緒も、その傍らで凛と背筋を伸ばしている。
――逃げない眼。
自分に起きた出来事を、受け止めている眼だった。
「美希さん、ですか? あなたにとって、死とはなんでしょう」
「いきなりなんです?」
「ある人は、貴重な財産だと言います。またある人は、生に意味を与える存在だと言います。僕は、死とは偽らないもの――偽れないものだと考えています」
「なんやの、あんた」
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