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「亡くなられた菊江さんの生は、その偽れないものによって、この世界での幕を閉じました。それは、あなたが立ち入る領分ではありません」 「なに言うてるかわからんわ」 「どのような人にも、等しく訪れるものだ、と言うことです。与えられた生を全うされました。それは、困難の終結と同じこと。――残された人間は、ただ頭を下げて、お疲れ様でしたと送ってあげるのがよろしいかと思います。どんな人間でも、与えられた生と死の前には、平等であるからです」  静かに、口元に微笑みすら浮かべて。 「泣くも泣かぬも、惜しむ気持ちになんら左右されるものではないですが、口から出された言葉は、いずれ自分に返ってきます。他者を労れない人間は、自分を労ることができず、他者に労ってもらうこともできないでしょう」  美希は反論できずに、唇を噛み締めるだけだった。  怒りか羞恥か、肩が小刻みに震えていた。 「菊江さんの生は――死は、価値ある尊いものであるはずです。あなたのお腹にある命と、変わらないものです」 「――気分悪いわ、あんた、ずけずけとなんやの!」 「お体をどうか大切に。生まれてくる命に、どうかその尊さを教えてあげられる母親になってください」 「何様よ! ――帰るわ、ほんま気分悪い。直ちゃん!」  直樹の名を呼びながら、美希が逃げるように部屋を出て行くのを、桃香は呆然と見ていた。
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