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ばたばたと、足音が遠ざかって行く。
遥は泰然とした姿勢を崩すことなく、桃香に頭を下げた。
「――言い過ぎた、かな」
「いえ……」
「僕も精進が足りないね。純平くんを見習わなくちゃ」
「ありがとう、ございました」
言えなかったことを、言いたかったことを、代弁してくれた。
桃香が口にするより、波風が後に立たないだろうという、さりげない遥なりの配慮だということは、わかる。
「よかったんですか?」
「どうして? 僕はいつでも、僕だよ。相手が桃香くんの身内かどうかには、左右されない」
それもまた、事実なのだろう。
桃香は、そっと菊江の遺影に視線を送る。
凛とした微笑。
この家を長く支配してきた女の深い笑みだった。
込み上げる様々な感情に、臓腑が捩れるような痛み。
偽らない、偽れない死の、その姿があった。
無言のまま、頬を涙が滑り落ちて行く。
拳に重ねられた純平の手のひらの温度。
いつの間にか、傍らで寄り添うようにハンカチを差し出す志緒の匂い。
「お祖母ちゃんは――」
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