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 異様に渇いた喉に、声が張り付いていた。  網戸の窓からは、更に傾いた夕陽が濃い橙色の光を射し込んでくる。  光のほとんど入らない自分の部屋との違い。  菊江はこの部屋で、なんの言い訳もせず――あるいはできず、生の幕を引いたのだ。  独りで。 「お祖母ちゃんは――愛、されていたんやろか……」  どの命も等しく。  愛されて、ゆるされて、旅立つことができたのか。 「うちも、お疲れさまて、言うてもかましませんか……?」 「君の涙が、その答えだよ」  これもまた、ひとつの幸福のあり方なのだと、桃香の心の内が受け止めていた。  乗り越えたわけではない。  抱えて歩く道がある。  納める場所を見つける、ということ。  いつか将軍塚の展望台で、遥の語った言葉のひとつひとつを、実感として受け入れている自分に気づいた。  連なる日常の先に、菊江の肉体がもうないのだということ。  断ち切られる連鎖。  それは、終わりでもなく、始まりでもない。  菊江にぶつけたかったはずの諸々の負の感情や言葉たちが行き場を失ったが、失望ではない。
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