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――あぁ、まだ、笑える。
うちは、まだ笑える。
それが、なにの保証になるわけではない。
そんなことはわかっていた。
ただ繰り返されてきた、日常の隙間に、杭が打ち込まれる。
歪みではない。
ひとつの、区切り。
自然に持ち上がる口角に、わずかな戸惑いを感じた。
ありがとうの言葉と。
添えたお疲れさまの礼と。
新しく踏み出す一歩に、必ず純平がいることを――志緒がいることを、遥がいることを、桃香はもう知っている。
初めて浮かべた心からの微笑は、ぎこちなく歪んですぐに口元から消えた。
驚いたように目を見開いて唇を噛み締めた純平の。
泣き笑いの微妙な中間で唇を震わせた志緒の。
悠然とした遥の。
それぞれの反応を、桃香は受け止める。
見つけた居場所の、その確かな暖かさ。
何度繰り返しても、言い切れることはないだろうと思えた。
ありがとう。
ありがとう。
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