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遥たちは、夕食を食べずに帰っていった。
落ち着いたらまた連絡するからと言った桃香に、志緒も純平も、かたくうなずいていた。
静けさの戻った台所で、冷蔵庫の中身を確認する。
昼間の会食で出た弁当の残りもあったが、冷えた揚げ物には食指が動かなかった。
冷凍ご飯を解凍して、簡単なチャーハンの下拵えをしていたら、洋介がおずおずと顔を出す。
誰も居間にいないのに、少し驚いた様子だった。
「――もう、帰りはったん?」
「チャーハンでええか」
「ゆっくり、できたの?」
「いつでも会える。会おう思たら、いつでもいくらでも会えるから大丈夫や」
「うん――」
薄暗い台所のシンクで手を洗った洋介が、桃香の隣で皿を並べるなどを手伝い始める。
眼下で動くつむじに、桃香はしみじみとした情が沸いてくるのを感じた。
繰り返されてきた日常の一部を共有してきた存在。
その小さな背で抱えた事実は、どんなにか洋介を打ちのめしただろう。
知らないで過ごせたはずの過去は、もう取り返せないのだ。
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