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ずっと、ずっと恐れていた。
心の片隅で、ずっと。
いつか洋介に、この問いを向けられることを。
今日か明日かと――怯えて待っていた。
桃香はガスの火を止め、きつく目を瞑る。
焼けるように熱くなった喉を押さえて、天井を仰いだ。
わかっていたことだった。
洋介に知られたのだと知ったあの朝から、この時がいつか来ることなど。
桃香の制服のスカートを握って離さない洋介が、うっと声を詰まらせてしゃがみこんだ。
「――大丈夫か?」
「気持ち悪い……」
「少し、寝ぇ」
「みんな、気持ち悪い……!」
初めて見せる、洋介の激昂だった。
ぶるぶるとスカートを握った手を震わせて、口元を覆ってうつむく。
換気扇の静かに唸る音が、耳障りだった。
優しくない、家だった。
誰にとっても、優しくない家だった。
――それでも。
「お姉ちゃんは、平気なん!? 僕は、気持ち悪ぅてたまらん! お父さんも、お母さんも、みんな気持ち悪ぅてたまらん……!」
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