13

16/20
前へ
/270ページ
次へ
 ずっと、ずっと恐れていた。  心の片隅で、ずっと。  いつか洋介に、この問いを向けられることを。  今日か明日かと――怯えて待っていた。  桃香はガスの火を止め、きつく目を瞑る。  焼けるように熱くなった喉を押さえて、天井を仰いだ。  わかっていたことだった。  洋介に知られたのだと知ったあの朝から、この時がいつか来ることなど。  桃香の制服のスカートを握って離さない洋介が、うっと声を詰まらせてしゃがみこんだ。 「――大丈夫か?」 「気持ち悪い……」 「少し、寝ぇ」 「みんな、気持ち悪い……!」  初めて見せる、洋介の激昂だった。  ぶるぶるとスカートを握った手を震わせて、口元を覆ってうつむく。  換気扇の静かに唸る音が、耳障りだった。  優しくない、家だった。  誰にとっても、優しくない家だった。  ――それでも。 「お姉ちゃんは、平気なん!? 僕は、気持ち悪ぅてたまらん! お父さんも、お母さんも、みんな気持ち悪ぅてたまらん……!」
/270ページ

最初のコメントを投稿しよう!

394人が本棚に入れています
本棚に追加