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今にも戻しそうなほど、白くなった頬を痙攣させる。
――引き返せんように、なる。
それ以上口に出したら、同じ落とし穴に落ちてしまう。
「お祖母ちゃんは、知ってたんやろ……?」
がちがちと歯の根の噛み合わない口を、歪に歪めて。
「そやからお姉ちゃんは、お祖母ちゃんが嫌いやったんや! 僕かて見てたらわかる。嫌い、やったやんか」
「そう、や」
「誰も助けてくれへんかったの? お母さんも、お兄ちゃんも、みんな知らんふりして黙ってたん? 気持ち悪い……!」
「違う、洋介。そうやない」
「お姉ちゃんは――みんなが、嫌いやろ……?」
「違う」
「僕、も……嫌い?」
「洋介……!」
どんなに勉強ができても、大人びた言動が多くても。
小さな、小さな小学生だった。
弟だった。
――紛れもなく。
「僕、も……なんも、できんやった……。耳塞いで、布団被って、あの時――ごめん、なさい」
大きな負債を抱えた力のない眼から、ほとほとと涙を落とす。
「ごめんなさい――…」
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