彰&絵理

1/1
前へ
/16ページ
次へ

彰&絵理

絵理はキョロキョロしながら廃屋ホテルの中を進んで行く。その1メートルくらい後ろを、仏頂面の彰が着いて行った。 「ここのホテル、結構上質な感じだよね~…見て、廊下とか広い…」 「そうかもな」 応える彰の言葉は少なかった。 彰には、絵理のオカルト趣味が理解出来なかった。 恐怖を感じる事に楽しみを見出だす事は、彰にとっても理解できた。 しかし、その対象は、いるかいないかわからない「霊」というものではなく、はっきりと体感出来る「スピード」という物に対してだった。 瓦礫の中を進みながら、寒気と共に尿意をもよおして来る。 こんな時、男は便利だ。 「おい、絵理。ちょっと小便」 「えーっ!こんなトコにトイレなんて」 ないよ、と続けようとした絵理の視界に、ホテルのトイレマークが飛び込んで来た。 「便器の一つも残ってるよね!洗面所も高級だったらいいな♪」 絵理は率先して、普段は入れない男性トイレに入った。 「…なんでお前まで入るんだ…」 ブツブツ言いながらも、彰は小用を足す。 外では、やっぱり普通より広いかも~と絵理が感嘆の声をあげていた。 洗面所の写真を絵理が幾枚か取り、満足して戻ろうとした時。 ぴたっ ……ぴたっ 何かの音が聞こえた。 2人は顔を見合わせたが、その後絵理はニヤリと笑って、 「彰の何かが下に漏れたかな~?」 と軽口を叩いた。 何言ってんだ、と言いながら、彰は後ろを…振り向いてしまった。 洗面所の鏡が見える。 ―――鏡には、真っ赤な手形が幾つも幾つも残り… ぴたっ …ぴたっ 更に、増殖していくのであった。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

115人が本棚に入れています
本棚に追加