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彰&絵理
絵理はキョロキョロしながら廃屋ホテルの中を進んで行く。その1メートルくらい後ろを、仏頂面の彰が着いて行った。
「ここのホテル、結構上質な感じだよね~…見て、廊下とか広い…」
「そうかもな」
応える彰の言葉は少なかった。
彰には、絵理のオカルト趣味が理解出来なかった。
恐怖を感じる事に楽しみを見出だす事は、彰にとっても理解できた。
しかし、その対象は、いるかいないかわからない「霊」というものではなく、はっきりと体感出来る「スピード」という物に対してだった。
瓦礫の中を進みながら、寒気と共に尿意をもよおして来る。
こんな時、男は便利だ。
「おい、絵理。ちょっと小便」
「えーっ!こんなトコにトイレなんて」
ないよ、と続けようとした絵理の視界に、ホテルのトイレマークが飛び込んで来た。
「便器の一つも残ってるよね!洗面所も高級だったらいいな♪」
絵理は率先して、普段は入れない男性トイレに入った。
「…なんでお前まで入るんだ…」
ブツブツ言いながらも、彰は小用を足す。
外では、やっぱり普通より広いかも~と絵理が感嘆の声をあげていた。
洗面所の写真を絵理が幾枚か取り、満足して戻ろうとした時。
ぴたっ ……ぴたっ
何かの音が聞こえた。
2人は顔を見合わせたが、その後絵理はニヤリと笑って、
「彰の何かが下に漏れたかな~?」
と軽口を叩いた。
何言ってんだ、と言いながら、彰は後ろを…振り向いてしまった。
洗面所の鏡が見える。
―――鏡には、真っ赤な手形が幾つも幾つも残り…
ぴたっ …ぴたっ
更に、増殖していくのであった。
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