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「……よっ」
周りには聞こえないくらい短く呟いて、俺はベンチから立ち上がった。
午前中の空は晴れていて、お世辞にも気持ちいいとは言えないが、
その光が優しく木々の隙間から顔を照らしてきている。
そんな公園の中を今、目的も無く歩いている。
「んっ…あぁ~…」
歩きながら背伸びをする。
「今日は仕事ゼロか。」
そう。今日は仕事が無い。
いつもなら引っ切りなしに、とまではいかないがこんな時間がとれる様なことは無かった。
近くに在る公共放送用の屋外スピーカーから午前11時30分を知らせる誰かの声が聞こえる。
「今日もあと少しで12時か。」
さぁ何をしよう。
せっかくこんな時間がとれたんだ。
ただ暇なだけならつまらないし。
「……ケーキでも買いに行くかな。」
そうして、一人で店のある通りへと歩き出した。
「んぐ…もぐもぐ…」
それからしばらくして、俺はケーキ屋のバルコニーでケーキを食っていた。
「やっぱりここのケーキ、美味いな。」
「そうか?一番安いのを選んでるんだと思ってたよ。」
そう声を掛けられ振り向く。
そこには、幼なじみの顔があった。
髪は金髪、瞳(め)の色は栗のような茶色だ。
「またお前か、ハッシ。俺がお前がここに居るってだけでここに毎日足しげく通っていたと思っていたのか?」
「燕斗お前…俺がそんな奴に見えるか?」
「いや、見えないが…」
「ならいいんだ。まあーこれからもヨロシク頼むよ!お客様!」
バシバシとハッシが背中を叩いてきた。
「さっさと仕事に戻れ。」
「ハイはい。エント様!」
くっ…この上ない嫌な呼び方だな。
そうしてハッシは店の中に戻って行った。
「………」
全く、いつもうるさいヤツだ。
さっきのヤツは
ハッシ。
『ハッシ・ヒルゼント』。
さっき見た通り、ちょっとテンションが高い、ここのケーキ屋で働いてる俺の数少ない友人であり、幼なじみだ。
あぁ、そういう俺は燕斗。
『夜昼 燕斗』。
読み方は『ヤヒル エント。』
こんな苗字、なかなか聞かないと思う。
何でも俺達は、
『孤児院』育ちだからな。
この話はまた何時かするだろう。
今はこの至福の時間を楽しみたい。
さぁ、この後は何をするかな。
バルコニーで座っていた椅子にゆっくり寄り掛かる。上には空が見える。
(よく晴れた…綺麗な空…あの日とは…正反対だな………あの日?…あの日ってどの日だ?)
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