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「おっといけない、仕事やらなきゃ。
それじゃエルフさん、またね」
「うん、また仕立てよろしく」
ハナンが今気付いた、と先ほどカウンターの内側に落とした洗濯物を抱え込む。
何度も訂正しているがあたしの名前はフゥチェだ、と言いかけたけれど、同じように抱え込んだ返却物の重みで口が止まった。
洗剤の香りと、ほんのわずかな集落の匂いがあたしの鼻をくすぐる。
あたしは魔法が得意でかよわいエルフ、それは曲げることのできない真実。
ハナンが忙しそうだったのも手伝って、挨拶だけで店を後にした。
******
洗濯物はかさばる。
それが村人全員の分ならなおさらだ。
あたしはえっちらおっちら服の大群を抱えていったが、ついにマフラーや帽子のような小物類がバランスを崩し、音を立ててこぼれてしまった。
「あー、細かいの持ちにくい!」
悪態を尽きながら、あたしは最終手段にでる事にする。
それすなわち。
「全部着る!」
帽子、レッグウォーマー、耳当て等々……
あたしが着々と着膨れていく中、
最後に残ったのは指関節に銀装飾が施された、ぬらりと不気味な光沢を放つグローブだった。
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