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集落のみんなが作ったエルフの小道を歩いていくと、せいたかのっぽの木々は姿を消していく。
森を抜けるか抜けないかの境目、三角形にそびえ立つ灰色の一枚岩が魔女の仕立て屋だ。
「こんちゃー、エルフでっす」
岩にしか見えないドアをノックすると、音を立てて岩の一部がずれた。
できた通路を斜め下へ辿っていくと、小さな小部屋に突き当たる。
そこが魔女の仕立て屋だ。
「前の服の回収と仕事頼みに来たよー」
「はいはーい……ありゃ、常連エルフさん」
今日も変わらず怪しげな薬やら魔道具やらがごっちゃごちゃに並べられた部屋を見回しながら叫ぶと、奥の方からパタパタとスリッパを引きずる音が聞こえてくる。
やがて姿を現したのは、あたしと同い年ぐらいの小柄な魔女。
自慢のとんがり帽子が左右に振れた瞬間、あたしはぐっと顔をひきつらせた。
「……なに、ごの臭い」
まだ魔術学校を卒業していないひよっ子魔女、ハナンが仕立て屋をやっているのには二つ程理由がある。
学費を稼ぐためと、ハナンが専攻した魔法薬学――私にはどう見ても適当な葉っぱやカエルを鍋の中でかき回しているだけにしか見えない――
の修行のためだ。
お手製の魔法薬はハナンの作る服をまた違った面で引き立てる。
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