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~一条瞳子~
八月。
私と冷泉君の気持ちが一つになってから二ヶ月と少しが経った。
「瞳子、さっきの所教えて」
「ん?ここ?」
「そうそう」
数学の授業の終わり、そう言ってきたのは亜美ちゃん。
亜美ちゃんは受験に数学を使うそうで、放課後も先生の所へ分からない所を聞きに行ったりしている。
すごい。
自宅から通える範囲の短大を受験しようと思っている。
将来は一般の事務職の仕事につきたい。
今は八月。
小学生や中学生は夏休みを満喫しているんだろう。
でも、そうはいかなかった。
毎日朝から夕方まで補習を受けなければならない。
模試を受ける回数も多い。
冷泉君は県内の国立大学を受けると言っていた。
でも、頭良いし大丈夫なんだろうな。
私が分からないと言った所は何でもすんなりと教えてくれるのだ。
『すごいね、何でこうも簡単に分かるの?』
『別に。普通じゃない?』
自慢げに言うのではなくサラリと言った彼。
ほほーっと感心して言葉が出ない。
夕方の補習が終わった後、音楽室へ毎日行っている。
曲をリクエストすれば弾いてくれる。
「何、弾いてほしい?」
今日も放課後冷泉君はピアノの前に座っている。
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