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そうなのだ、昨日は古庄楽器店で楽器を習っている人々の一年に一度の発表会。
それがD町の市民会館ホールで行われていた。
無償で習っていた俺にも声がかかり。
昨日、行ってきた。
出番は午前中、緊張した面持ちでスポットライトを浴びた。
恥ずかしい気持ちはあった。
でも、初めてのこんな大きな場。
古庄楽器店へ行っていることもまだ告げていなかった彼女に、全てを打ち明けその時初めて驚いた顔が見たかった。
こんなことを最初から話すのは中々時間がかかる。
でも、話に相づちを打ちながら聞く一条さんに、俺はゆっくりと全てを話した。
「うん。何か…初めて聞くことばかりで」
「だろうね」
一人でコクコク頷きながら彼女は何かを考えている。
「聞きたかったな」
それは小さな声で聞こえたか聞こえないかの呟き。
「どうせ独学でやっていた癖がまだ残っているから、他の人に比べるとすごく下手だし」
「そんなことないよ」
少々投げやりに聞こえる俺の言葉に、彼女は必死になってその言葉を否定した。
「…」
「そんなことないって」
声を大きくして言う必要まではないのに。
「あ…うん。ありがと」
そこまで言われると何か照れくさい。
逆方向を向いてしまった。
「今度楽器店一緒に行く?」
話を変えようと俺が振った言葉に、一条さんは笑顔で頷いた。
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