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周りから見たらちっぽけなことなのかもしれない。
もしかしたら既に長岡と手を繋いだことがあったのかもしれない。
それでもよかった。
だって今、一条さんは隣にいる。
微笑ましい気持ちでどこまでも続くような道をゆっくりと歩く。
彼女と共に。
水色の影の差す、ビルの下を。
手と手の間に出来た小さな隙間。
そんなものも時間をかけてなくしていきたい。
たまに焦る自分と、落ち着いた気持ちでいる自分。
ただ今はほっとした気持ちで無言で歩く。
長かったようで短かった一日。
そこには知らない一条さんがいて、たくさんの笑顔を見せてくれた。
…可愛いな。
心の中で思うだけで口には出せない。
何気なしの言葉じゃないからこそ、言わない。言えない。
『ありがとう』
別れ際にそう言って別れた。
次の日学校へ行くと港が俺の席に座っている。
「俺、一条さんのあの行動には見直したよ」
「…何偉そうに」
「やっぱりお前のことを考え直したら、いてもたってもいられなくて帰っちゃったんだよね。博人喜べよ!」
港は一条さんがカラオケから帰る現場にいたのだろう。
それにしても、俺だけじゃなく彼女のことも分かったようにズケズケと。
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