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「でも、お前も空しい奴だよな」
「それどういう意味」
さっきまでは堂々とした態度だった港が急に声を潜める。
耳を貸せとブラウスの袖を引っ張る姿を見ることはほとんどない。
港にしてみれば珍しい行動。
「お前知ってるんだろ?」
「知ってるって何を」
「俺もカラオケの帰りに長岡から聞いちゃったんだけど」
「…長岡?」
後方で黒板に何かを落書きしている。
いつもの長岡。
「うん、長岡に。あれだよあれ…」
「あれって何」
「…」
「港」
「だからさ…」
中々言うとしない、何かがおかしい。
「だから何って」
もうじきチャイムが鳴る、急かそうとした時だった。
「一条さんのファーストキスの相手、長岡」
耳すれすれに口を持ってきた港が発した言葉だった。
そこで運悪く授業開始のチャイムが鳴る。
…ファーストキス、長岡?
いくらなんでもそんなことは今まで考えたことはなかった。
だって、あれは長岡の片思いだったから。
大事であろう英単語がスルスルと耳をすり抜けていく。
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