魔女

2/5
前へ
/5ページ
次へ
 湿った空気、光の少ない空間。そして、この、何とも言えない歩きにくさ。  この森は、森というよりも洞窟に近かった。  これまで相当歩いたが、出口が見える気配はない。 「踏んだり蹴ったり、ね」  もともとポケモンを求めて森に入ったのだが、その目的は、どうやら達成できそうになかった。  そもそも、この森にはなぜかポケモンがいないのだ。それどころか、人の気配すらもない。  そう。今自分のとなりにいるこの少年を除けば。 「ここまでなにもいない場所は初めてだな」  男だからだろうか、こんな不気味な空間にもかかわらず恐怖の色が見えない。いや、むしろ興味すらあるらしい。  チェレンというこの少年は、メガネを付けた目で辺りを見回していた。  こいつの肝っ玉はどうなっているんだ、と思わなくもないが、だからこそ頼りになるのは事実。  なにもいない森は、静かに、ただひたすら静かに、私たちを飲み込んでいく。  九年前の私なら、なんとも思わなかっただろうか。  ふとそう思って、あわてて頭を振った。  九年前の私なら、確かになんとも思わなかっただろうが、世間知らずだった。今の私は世界を知っている。  あの頃と比べてはならない。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加