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湿った空気、光の少ない空間。そして、この、何とも言えない歩きにくさ。
この森は、森というよりも洞窟に近かった。
これまで相当歩いたが、出口が見える気配はない。
「踏んだり蹴ったり、ね」
もともとポケモンを求めて森に入ったのだが、その目的は、どうやら達成できそうになかった。
そもそも、この森にはなぜかポケモンがいないのだ。それどころか、人の気配すらもない。
そう。今自分のとなりにいるこの少年を除けば。
「ここまでなにもいない場所は初めてだな」
男だからだろうか、こんな不気味な空間にもかかわらず恐怖の色が見えない。いや、むしろ興味すらあるらしい。
チェレンというこの少年は、メガネを付けた目で辺りを見回していた。
こいつの肝っ玉はどうなっているんだ、と思わなくもないが、だからこそ頼りになるのは事実。
なにもいない森は、静かに、ただひたすら静かに、私たちを飲み込んでいく。
九年前の私なら、なんとも思わなかっただろうか。
ふとそう思って、あわてて頭を振った。
九年前の私なら、確かになんとも思わなかっただろうが、世間知らずだった。今の私は世界を知っている。
あの頃と比べてはならない。
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