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「……これは、驚いたな」
突然、チェレンが普段と変わらない静かな声で言った。歩みは止まっている。
私の足も、いつそうなったのかはわからないが、とにかく止まっていた。
現実に引き戻された意識が、状況把握を開始する。
さすがに旅慣れてきたのか、それはすぐ終わった。同時に、チェレンがなにに驚いたのかもわかった。
「へえ、すごい」
目の前に、大きな、とても大きな古い屋敷があったのだ。
壁という壁に苔が生え、もとの色がなんだったのかわからないほどペンキがはがれている。
そして、窓から光が溢れていた。
ここに来て、人の気配。
逆に、恐怖を感じた。
「さて、どうしようか。……どうしたい? トウコ。そろそろ日が暮れるけど」
チェレンがC-ギアを見ながらいった。
やけに辺りが暗いと思ったら、そういうことだったのか。
なにも出そうにない森で野宿か、なにが出るかわからない屋敷での一泊。
どちらがいいかといえば、当然、前者。
そう思って口を開いたら、声よりも先に、屋敷のほうから誰かが出てきた。
「かわいい子供たちだねぇ。どうしたのかい?」
老婆。紫色のガウンに身を包み、レパルダスのかぎ爪よりも長い爪をもっている。
その姿から連想できるものは、ただ一つ。
全身から汗が噴き出した。
「いえ、なんでもありません。少し遊びすぎたんで、今から帰ろうと思ってました」
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