第二章 覚醒の予感

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 低い機械音と共に奈月の身体をDIVEシステムが覆っていく  その光景はまるで奈月とDIVEシステムとが一体化し、一つの存在になっていく過程を見ているようでもあった 《全システム外部からの干渉なし、リアクト開始…視覚変換、聴覚変換、嗅覚変換、味覚変換、触覚変換―オールクリア、DIVEシステム装着完了》  奈月の身体をDIVEシステムが完全に覆い尽くされたのを確認すると皐月はヘッドセットで声をかけた ―奈月、気をつけてね…  寝たと思っていた皐月からのいつになく心配そうな声に奈月は微笑を浮かべる 《大丈夫よ、いつもと同じ作業だから…行ってくるわね》  視界の隅にGoサインが映し出されると奈月の意識は急速に擬似世界に引き込まれていった  外部からの感覚が失われ、奈月の存在が擬似世界の存在へと変換されていく  たとえようのないこの感覚はまさに意識の崩壊と肉体からの別れ、それは死という表現が最も適切なのかもしれない  落ちていく感覚が消え去りゆっくりと瞳を開くと、目の前には無限に拡がる情報で埋め尽くされた擬似世界が飛び込んでくる ―『DarkNight』中枢部の擬似世界に到着…メインパーソナルにアクセス  奈月の言葉と共に空間が奇妙に波打ち、目の前に観音開きの重厚な扉が彼女の行く手を遮る 《ロック確認、前に私が封錠した時のままだわ…ロックパスワード《希望、永遠、未来、約定、鎖》…END OF TIME解除》  彼女の言葉と共に扉の表面が光り始め、空間全体が微かに振動する  静かに開き始める扉を見つめながら奈月は、この瞬間に対していつも緊張していた  この先の光景が崩壊しているのじゃないかという不安……だが、今回もそれは杞憂に終わった  開き切った扉の奥には上下に果てしなく続く螺旋階段がいつもと変わらず存在していた  その光景は人のDNA構造の配列のようにも見えた  奈月はゆっくりとした歩調で螺旋階段に足を踏み入れるとその周囲を覆うように膨大な情報が瞬時に浮かび上がった ―奈月、聞こえる?  皐月の声が奈月の意識に直接、話し掛けてくる 《ええ、聞こえてる…必要な記録情報を送るわ》  奈月からの通信の後に膨大な記録情報がDIVEシステムを媒介にして素早く読み取られていく ―何も変化はないみたいね…  読み取られていく情報を機密情報に振り分け、本部のメインシステムへと移行していくのを確認する
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