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「こほん……『玉の緒よ~』」
「ハイッ!!」
え? まだ上の句の出だしだったよね?
音よりも光よりも速く放たれた会長の手は、正確に札をはじいていた。
「はやっ……」
「しかも合ってるし」
会長が拾い上げた札にはちゃんと読み上げられた句が載ってあり、着物をきた女性のイラストがついてあった。
「『玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば 忍ぶることの 弱りもぞする』。この句の意味は玉の緒、つまり魂の緒が絶えるということは死んでしまうということだ。絶えなば絶えねと綴られているのは『いっそ死んでしまっても構わない』ということになるな」
長い説明。そして、結構ダークな内容。
寿命宣告されている身としては他人事ではない気がして滅入るな……。
「下の句に忍ぶとあるが、なにを忍ぶのかというとずばり恋、死なずに永らうと忍ぶ恋の心も弱ってしまってみんなに知られてしまうという意味になるんだ。この句の作者は皇女であり、許されざる恋に募らせた想いをひた隠しにしていて、それでも隠しきれないほど強い想いからこの句を詠んだんだ」
活き活きと語る会長の話に、最初は引きつっていた顔も涙で濡れてきた。
あれ……なんだか視界がボヤけ……。
「うぅ……なんかわかります! 許されざる恋! 想いは告げられず、届くこともなく、叶うはずがないのに、それでも気持ちは止められない! ああ、なんだかアタシも同じ境遇にいるようなっ!」
「お前は隠してないし、第一もう想いを告げただろーが」
ツッコミを無視して暴走する真希にため息が止まらない。
「百人一首にはこういった恋を詠った作品がたくさんあるんだぞ」
衝撃の事実に、なぜかやる気を起こし始めた奏と綾。
鼻息も荒く、構えを取っている。
「やる気だな? よし、私もこの調子で勝たせてもらおう」
自信げにうそぶく会長。
ちらりとこちらを見たのは俺への挑戦状だろうか?
よしっ。ならその鼻っ柱、へし折ってやるぜ!
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