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食事を終えて宿舎に戻る。恋雪を風呂に入れて白湯を飲ませた。こんな小さな恋雪もいつかは立って歩き、お喋りをしてスキーもするだろう。私はため息をついた。普通の親なら子の成長は楽しみなものだろうに。
「どした、溜息ついて」
「岳史……お帰り。早かったね」
「ああ。バイトが結構揃ったから上がらせてもらった。恋雪は」
「お風呂いれたところ」
恋雪を岳史に手渡す。舌を鳴らして恋雪の気を引く。岳史の溺愛ぶりを見ると溜息もつきたくなる。
「義母さんとメシ食えたか?」
「うん……」
「どした?」
「河口さん」
「河口さんがどした?」
「ゲレンデでね、板やストックを用意させたり、リフト乗り場まで抱っこで連れてってせがんだり、転んでも自分からは起きあがらなくて起こしてもらうのを待ってたり。顔に着いた雪をはらえとかブーツの底にくっついた雪を取れとか、相当我が儘なことを言ったらしくて」
「ぷっ……」
岳史は吹き出すと豪快に笑い始めた。
「ちょ……ひどい」
「ユキらしいなと思って」
「そう?」
「その女王っぷり、三つ子の魂ナントヤラだな」
「もう……。でもね、父はスキーに行くといつもそうしてくれたから。板をそろえてゴーグル……んっ!」
視界が一瞬暗くなって、唇にふれる柔らかいもの。
「ちょっ、岳史。まだ途中!」
「ユキの言いたいことは分かったから」
「あのね! んっ!」
話したいのに唇を塞がれて。
「俺もそうするから」
「ねえ、そんなことしたら……ん!、ちょ……恋……」
今度は少し熱いキス。
「いいだろ。恋雪にもユキみたいになって欲しいし」
「岳史……」
「悪いか? 気の強い女王様」
岳史は恋雪を抱いたまま、私にキスを続ける。産後っていつからいいんだ?、と呟いて再びキスをする。私は、もう許可は下りてる、と岳史のキスの合間に返事した。
(おわり)
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