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 夢中になりすぎてお昼を忘れてたことき気付き、麓のレストハウスまで来た。八木田橋と一緒に食事を取る。会計は彼がしてくれた。そして勿論ケーキもお供で。今日はチョコケーキと苺ショート。席につくと八木田橋は私が選んできたケーキからすかさずチョコを奪い取る。  食事を終えた後は平屋の建物に板を持って移動した。ビンディングの調整をするために。中に入るとがらんどうとしていて、インストラクターは皆、レッスンに出払ってるみたいだった。 「ちょっと失礼」  八木田橋はそう言うと突然私を抱き上げた。 「や……」 「素直に体重言わないからだ」 「聞かれて、はいそうですか、って言う女の子いる訳ないでしょっ??」  八木田橋は、それもそうだな、と私を下ろした。50でいいか、とブツブツ言いながら台上にある私の板を押さえる。ドライバーでビンディングをずらして留めた。  室内の片隅にあるファンヒーターが風音を立てる。私は椅子に腰掛けて八木田橋の背中を見る。無機質な室内で唯一動く八木田橋の姿は自然に視界に入ってしまう。 「ヤギ、今日オフ……あ、お取り込み中?」  扉が開いて入って来たのは、あのロマンスリフトの先で私に声を掛けたインストラクターだった。 「そんなんじゃねーよ」  なんかズルイなー、ヤギ独り占めで、とかなんとか話してる。 「一応顧客だし、そんなんじゃねえから」  そのインストラクターは、そ、と素っ気なく返事をして私に向き直った。 「ね、今度友達連れて来てよ」 「え?」 「合コンしようよ」  それで私に人数を聞いてきたんだ。ノリが軽い。 「ね?、こっちもさ、スキーの上手いインストラクター揃えるし。ボーダーの方がいい? あ、年下好き??」 「え、あの……」  私が答えに困っていると、八木田橋は私の板にワックスを掛けながら呟いた。 「だから、そんなんじゃねえって言ってるだろ……」 .
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