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「またまた~。格好つけちゃって」  八木田橋は、うるせえ酒井、と言いながら作業を続けている。そのインストラクターは私に向かって更に言葉を続けた。 「ね、ヤギにお姫様抱っこされたでしょ?」  え? 見られた? 私の慌てた顔にその酒井というインストラクターは笑った。 「やっぱり~。それ、こいつの常套手段だから」  私は八木田橋を見た。でも黙々と手を動かすだけで肯定も否定もしなかった。 「こいつさ、滑りがいいから目立つじゃん? それで女の子引っ掛けて合コンしてさ、去年だってそれで彼女作ったし」 「え……」 「彼女出来たの、俺じゃなくてヤギね」  八木田橋は変わらず無言だった。彼女いるんだ、いてもおかしくない。そうか、じゃあ携帯に入ってる画像はその前の彼女の……?  私は考えても無駄なことをぐるぐると考えていた。八木田橋に彼女がいようがいまいが私には関係ない。消えてしまった画像が誰のだなんて関係ない。  八木田橋はワックスを掛け終えたのか、私の板を台から下ろし壁に掛けていた。酒井さんは、ね、キミ名前は?、コーヒー飲む?、インスタントだけどいい?、と言いながら私の返事も聞かずにカップボードからマグを取り出していた。八木田橋は今度は自分の板を台に乗せてワックスを掛けている。ただ無言でひたすら腕を動かして。私の位置からは八木田橋の顔を見ることは出来なくて、背中を見つめて黙っているしかなかった。 .
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