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『河口さん、ありがとう。助かったよ』
『いえ。ユキちゃん、またお姉さんと遊んでね』
『ふん!』
私は最後までありがとうもごめんなさいも言わなかったらしい。
レストランの窓の外は暗く、室内の明かりに照らされた雪がヒラヒラと舞い落ちる。20年以上も前の話を持ち出されて、暗い窓に映る私の顔は不機嫌そのものだった。
「あのときのユキちゃんの膨れっ面ったら、本当に」
「目に浮かぶわね。ユキは父親っこだったから」
「そうね。青山さんもユキちゃんを溺愛してたものね」
母と河口さんはケタケタと笑いながら届いたウーロン茶で乾杯する。
「もう……」
「ユキも今に分かるわよ。岳史さん、恋雪を溺愛しそうだものね」
「岳……」
私は振り返って柵の向こうの恋雪を見つめた。寝息を立てて、万歳をして手をグーに握っている恋雪。その恋雪を抱っこする岳史の姿が目に浮かんだ。
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