新春

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※キィーキィー ヒヨドリの声で目が覚めましてね。雨戸を開けると、冷たい空気が部屋の中に流れ込んできました。もう、小寒なんですね。  炬燵に火を入れ、豆腐小僧くんに熱いお茶と漬物にご飯を持ってこさせましてね。そして、お茶漬けをさらさらとね。人間たちの中には、我々妖怪は、常に人間を襲って食っていると思っている者たちがいるようですが、とんでもない誤解なんですよ。  人を喰っているのは、妖怪でもごく一部なんです。例えば鬼女の夢香さんなんか、いつもいい男を喰いたい、なんて言っていますよ。  彼女は、人間に変装して、よく合コンとかに出ているんですけどね、未だにいい男が見付からないとか。もっとも、彼女が近づくと、男の方が逃げてしまうようですがね。  ところで、人を喰うのは、妖怪ばかりじゃないんですよ。昔むかし、ある村に、16才になるそれは美しい梅と言う女性がいたんですよ。その娘が、ある日から急に病になりましてね。日に日に衰弱していったんですよ。医者に診せても、原因不明。もう、このまま死んでしまうのでは、と言うくらいに衰弱してしまったんです。そんなある日、彼女は親友を枕元に呼び、あることを告白したんです。それというのは、実は、彼女には死ぬほど好きな男がいて、彼のことを思うと胸が苦しくなり、食事も喉を通らないとか。  早速、その彼女の両親は、男の親にかけあうと、なんと二人の縁談を纏めてしまったんです。  そして、初夜の日。翌朝になっても、なかなか二人は寝室から出て来ません。少し心配になった男の親が様子を見に行くと。  蒲団は血まみれ。息子は胸から下がありません。なんと、梅が息子を喰ってしまっていたんですよ。梅は、と言うと、幸せそうな顔をして、息子の隣で事切れていました。愛欲の炎は、ついにそこまでいってしまったんですね。  私は、人間なんて不味いものは食べません。羊羮に渋いお茶があればいいんです。それと、美味い酒と肴もね。
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