序章

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『キィィ…キィィ…』 車椅子の音が静かな病院の廊下に響く… 車椅子には、収監されている患者だろうか、手足を自由に動かす事ができないように真っ白な拘束衣に身を包み、口には猿轡、更に目隠しに耳栓と見事に身動きを封じられたままの人間が乗せられ、病室までの道程を運ばれている。 しかし余程凶悪な犯罪を犯したであろうその人物は、かろうじて動かす事ができる五感の一つ《嗅覚》を使って抵抗する訳でもなく静かに《呼吸》を繰り返す。 車椅子を押す手は一般的な病院のそれとは違いごつごつとした男性のものだった。 廊下の奥からは患者のものであろう呻き声や奇声が響いている。 しかしこの車椅子が向かう先はまったく物音一つしない静かな廊下の先なのである。
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