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「……」
人間界には“氷の鉄壁”という組織があるらしい。魔界側は長年その組織と戦ってきたが、未だ決着はついていない。
だからジャリスは命令を出した。氷の鉄壁関係者を殺せ、と。
ガイアヴィスは事前に調べた氷の鉄壁関係者の敷地内にこっそり入り、息をひそめた。
綺麗に切りそろえられた芝生の絨毯、等間隔で植えられた広葉樹、心地いい鳥のさえずり、全てが絵本の中に出てきそうな風景。
しかし、今は関係なかった。
ただ息をひそめ、茂みの中から様子を伺う。
すると、芝生の上に若い女性が座って読書をしていた。
緩く巻かれた長い銀髪に、同じ色の瞳。桜色の艶やかな唇は穏やかに微笑んでいた。
ジャリスとは違う、優しい微笑み。
――――綺麗だ……。
人間を見てこんな気持ちになったのは初めてだった。
ガイアヴィスは思わず身を乗り出してしまい、茂みから転がり出た。
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