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「!」
「あ、お待ちになって!」
ガイアヴィスは我に返って逃げようとしたが、女性が手を握って引き止める。
すぐに振りほどけるくらいか弱い力だが、何故か振りほどけなかった。
「あの……もし宜しかったらまた遊びにいらして。
ここで会えたのも何かの縁ですもの、私もっと貴方とお話したいですわ」
明確な返事は返せなかったが、ガイアヴィスは女性の手をそっと解き、急いで茂みの中に飛び込んだ。
その直後、声の主であろう若い銀髪の男性が、同じように銀色の髪をした子供を抱えて現れた。
「美奈紀、此処に居たのか」
「来て下さいましたのね、お兄様。あら、帝ちゃんも連れてきて下さいましたの?」
「ああ。帝が美奈紀おばちゃまと遊びたいと言ってな。
私も久々にお前の様子を見たくて、仕事を抜けてきた」
「まあ嬉しい。じゃあ帝ちゃん。おばちゃまと遊びましょうか。もう歩けるのかしら」
「ああ。最近やっと歩けるようになったんだ。
――――ほら帝、おばちゃまの方へ歩いていってごらん」
帝という子供は、よろよろと歩き出し、少し離れた場所で待つ美奈紀の胸に飛び込む。
美奈紀は帝を抱え上げると、大切そうに抱きしめた。
「よく出来ました、帝ちゃん」
「よしよし帝、偉いぞ」
その、魔界とは違う和やかな風景に、ガイアヴィスは目を奪われた。暗い茂みの中から見ているせいか、その光景が眩しすぎるくらいで……。
――――俺は、薄汚い……。
殺す事しか知らない。しかしあの生き物たちは……彼女は、その穢れを知らない綺麗な存在。
何故か心ひかれ、ガイアヴィスはずっと三人を観察していた。
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