10348人が本棚に入れています
本棚に追加
/427ページ
思えば、最初は苦手だったんだ。
あたしの心の傷まで、見透かされてしまいそうな、先生の瞳が。
『眠れない夜って、あるじゃないですか…』
『つらいことを、思い出すんですね。』
あれは、…見透かされていたからじゃ、ない。
先生の瞳に映っていたのは、あたしの傷痕じゃなく、…先生自身の、傷痕だった。
『眠れない夜があるって言ってたよね?
それって今日みたいに、彼を思い出した時だろ。』
あたしが瞬ちゃんに揺らいでいた夜は、いつも、…先生の瞳には、…傷痕が見えていた。
だから、躊躇っていた。
このまま先生の側にいることを。
…あの胸の燻りは、警鐘だったのかも、知れない。
『死に目には、会えてないんだ。
朝は元気だったのに、夜に都築が帰ったら、死んでたらしい。』
『それから、…眠らなくなった。
…夢を見るからとか何とか言って…』
先生の心の傷は、『大切な人を失う恐怖』だけじゃ、なかったから。
もっともっと、深い場所に隠した、…痛み…。
自分の、帰るべき居場所が、…『暗闇』だったこと。
…先生は、今もきっと、返事を求めつづけている。
『おかえり』の、言葉を。
.
最初のコメントを投稿しよう!