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あくる日の団子屋。見慣れないおじいさんがゆっくり団子を食べていた。
「あれ?はじめましてですよね?」
団子屋のバイトの娘がおじいさんに近付いた。
彼女は常連にも一見にもすぐに好かれるくらい人懐っこい娘だった。
今日もいつものようにおじいさんに声をかけた。
「…ああ。最近ここの団子屋さん、美味しいって評判だからねぇ、食べに来てみたんだ。」
おじいさんは人の良さそうな笑顔を浮かべた。
「……へぇ~。このお店、そんなに噂になってるんですか?」
「そうだよ。うちの隣人もよく来てるんだろう?ほら、お菊ちゃんっていうあんたくらいの娘さんだよ。彼女からこのお店を聞いたんだ。」
確かにお菊という娘はよく団子を買いに来ていた。歳も近いのでそこそこ話も合う。しかしバイトの娘は嫌なものでも見るようにおじいさんを見る。
「そうですか。…でもおかしいなぁ。お菊ちゃんはなんで甘いものが苦手なおじいさんにこのお店を紹介したんでしょうね?」
娘の言葉におじいさんの動きが止まった。
「…ひょっとして、お菊ちゃん、おじいさんが甘いものが苦手だって知らないのかなぁ?」
わざとらしく言う彼女をおじいさんは真剣な眼差しで見据えた。
「…いつから気付いた?」
「…ここのお団子屋さんが評判っておっしゃったところから、ですかね。」
「……なぜだ?」
「あなた評判だと聞き付けてくる割りに1つ1つ大変そうにお団子食べてましたから。甘いのお嫌いなんでしょ?」
娘は周りの客に聞こえないくらいの声でおじいさんに話した。
「…ほぉー。お主やるなぁ。」
「それはどうも」
微笑む彼女を見ておじいさんは立ち上がった。
「ほれ、お代だ。」
先程まで座っていたところに小銭を置いた。
「では、またのぉ」
おじいさんはゆっくりゆっくり人混みへ消えて行った。
「…全く、一体何なんでしょうか?」
娘は溜め息を吐き出してまた周りにいるお客さんと話を始めた。
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